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第45回 美術の祭典 東京展 出展作品

  • 会 場:東京都美術館

  • 展示日:2019年10月8日-14日

  • 作品名:人魚姫

Please see my artwork first. and feel it freely.

人魚姫 ガラス

- 人魚姫 -

AYUMI TAKAHASHIの「Glass Carving」

 2019年 -第45回- 美術の祭典「東京展」への推薦状を頂き東京都美術館への初出展が無事終了致しました。悪天候の中ご来場頂いた皆様、本当にありがとうございました。また、今回お会いできなかった皆さまとも、いつかお会いできることを楽しみにしております。

◆◆◆ 作品紹介 ◆◆◆

人魚姫 ガラス 想い

人魚姫 - 想い -

 6人姉妹の末っ子として生まれた人魚姫は、15歳の誕生日に海の上の世界を見る事を許されました。人魚姫はそこで美しい王子を目にします。彼女はすぐに王子に恋心を抱きました。その夜のこと、海にはひどい嵐が訪れ王子の乗っていた船は難破してしまいます。王子は意識を失った状態で海に放り出されてしまいました。それを見た人魚姫は、慌てて王子の元へ泳いでいきましたが、人間は海の中では呼吸ができない事を知り、日が昇ってきたところで王子を岸に運び介抱します。

​ この作品は、アンデルセン童話の「人魚姫」をテーマに、私が思い描く人魚姫の“想い ”を表現したGlass Carvingです。

 人魚姫の童話は5歳の時に初めて知りました。その年の学習発表会で自分の在籍する梅組では人魚姫をやる事になったのですが、担任に「人魚姫の役をやってみたら?」と勧められて、主役としてミュージカルに挑んだ思い出があります。

 

 

 ストーリーを通じ、感動、驚き、喜び、悲しみ、愛しさ、優しさなど、子供ながらにも色々な事を考え、それに合わせて私自身に様々な感情が生まれていったお話でもあります。当時の記憶を掘り起こしながら大切に彫刻していったのがこの作品です。

人魚姫 - 薬瓶 -

​​ どうしても王子の事を忘れられない人魚姫は、暗くて深い海の底に住む海の魔女のところへ相談に行きます。

 「人魚姫よ・・・おまえの望みは知っているよ。人間になりたいだなんて、おばかさんだねぇ。」

 

そう言いながら、海の魔女は後ろから光る小瓶を一つ取り出して人魚姫に手渡します。

「これは人間のように足の生える薬だよ。これをおまえにあげても良いのだけれど・・・そのかわり、あたしはおまえのその“美しい声”が欲しいんだよ。それでもいいのかい?」

人魚姫は言いました。

「私は二度と人魚には戻れなくてもいい。私の声と、その薬の瓶を交換して下さい。」

人魚姫は王子のお嫁さんになりたいばかりに、恐ろしい魔女に自分の舌をあげてしまいます。人魚姫はもう、歌を歌う事も話をする事もできません。

 この作品は、海の魔女が人魚姫に手渡した小瓶をイメージして作りました。瓶の表側には海の中に咲く特別な水中花、裏側にはその花を守るように泳ぐ魚達を彫刻してあります。

他の人魚達には毒にみえる薬瓶であっても、人魚姫にはとても美しい夢の小瓶に見えたに違いありません。

人魚姫 ガラス 薬瓶 
人魚姫 ガラス 痛み

人魚姫 - 痛み -

​ 人魚姫は魔女から貰った薬を迷うことなく飲みほしました。すると人魚姫の尾びれは二つに割れ、人間の足と変化しました。

 

歩くたびに激痛が伴い上手に歩けない人魚姫。丁度そのとき、助けた王子が通りかかったのです。

「なんて美しい人なのだろう・・・あなたの名前は?」

 しかし、魔女に舌を切られてしまった人魚姫は話す事ができません。

「足を悪くしているんだね?声も出すことができないのかい。可哀想に・・・。それでは不便だろうから、私のお城においで。一緒に暮らそう。」

王子は、人魚姫が嵐の夜に自分を助けてくれた「本当の命の恩人」とは気付かないまま、お城に連れて帰ります。

 

 この作品は、「王子と一緒にいたい」という想いだけで魔法の薬を飲み、自分の声と引き換えに人間の足を得た人魚姫の一途な姿を彫刻したものです。

しゃべる事ができず、足は切り裂かれるような痛みが伴う人魚姫。本来であれば痛々しい場面で、作品に取り入れるには表現が非常に難しいシーンだと思います。

 彫刻する時に特に気を付けたのは、人魚姫の痛みに反して、その表情に苦しさや辛さを全く感じさせないようにする事。また、人間の姿をしていても隠し切れない、“神聖な海のお姫様だけが持つ独特の雰囲気”を表現したかったので、試行錯誤の末、様々な彫刻の仕法を盛り込みました。

人魚姫 - 難破船 -

​​​ しかし、人魚姫と王子の楽しい日々はいつまでも続きませんでした。王子に隣国のお姫様との縁談が舞い込んできたのです。しかもそのお姫様は、人魚姫が王子を陸に運んだ後に王子を介抱した相手だったという事実も分かり、王子はその隣国のお姫様との結婚を決めてしまいます。

 人魚姫は声を失っているため、あの嵐の夜、「船から投げだされた王子を最初に助けたのは自分だった」という事実を伝える事ができません。

人間が水の中では呼吸ができない事を知り、陸の上に長く滞在することができない人魚姫が王子を助ける為にとった方法、それは、一晩中自分が泳ぎながら王子を海面上に持ち上げておくというものでした。

 

​​ またそれとは別に、人魚姫にはもう一つ、魔女から警告を受けていた事があります。“王子が人魚姫ではない他の誰かと結婚した次の朝、人魚姫の心臓は破裂し、泡となって死んでしまう”という事実です。

 

人魚姫は昨日までの楽しかった王子との生活から一転し、悲しくて、寂しくて、まるで深い海の底にいるような気持ちになり、今にも胸が張り裂けそうでした。

 この作品は、私が現時点で手掛けた作品の中では最大級で、約17cm×20cmのガラスドーム全面に大きな船一隻と海面の彫刻を施しています。

土台となったガラスには重さがあり、更に大きく湾曲しているため、抱きかかえるようにして彫刻していったのですが、自分の手のひらには全くおさまらない巨大なガラスドームに、一本一本削りを入れていくのは、とても大変な作業でした。

 デザインについてですが、中心に大きく彫った船舶は童話の中にでてくるような、少し歪な大型船をイメージしています。これにはもうひとつお話があって、幼稚園の卒園アルバムの表紙に私自身が描いた船の絵があるのですが、それがこの彫刻デザインの大本となっているという秘話があります。とはいうものの、当時の絵を実際に見て描いたわけではないため、仕上がった後にアルバムの絵と見比べてみたわけですが、同じような箇所に同じようなデザインを使っているのを確認した時、思わず声を出して笑ってしまいました。

人魚姫 ガラス 難破船

人魚姫 - ゆらめき -

人魚姫 ガラス ゆらめき

​​ 王子の16歳の誕生日、お城では盛大に結婚式が行われました。

 人魚姫の瞳に映るのは、美しいドレスに身を包んだお姫様と、その横で彼女に優しくほほ笑みかける大好きな王子の姿。魔女に舌を切られ、足の生える薬を飲んだとき以上の痛み、王子と一緒になれない悲しみ、そして絶望が一度に押し寄せ人魚姫に襲いかかりました。

 人魚姫の姉たちは、人魚姫を救うために、意を決して海の魔女のところへ助けを求めに行きます。そして自分達の美しい髪の毛と引き換えに、魔女から魔法の短剣を手に入れました。

「安心して、人魚姫。魔女から貰ったこの短剣で王子の心臓を突き刺しなさい。そうすれば、あなたは人魚に戻れるわ。」

 その夜、短剣を受け取った人魚姫は、王子の寝室に忍び込み王子の寝顔を見つめます。姉にもらったこの短剣で王子を突き刺せば、自分は人魚に戻る事ができる・・・。

 しかし、人魚姫はその短剣を迷わず海に投げ捨ててしまいました。

 大好きな王子を自分の手で殺め、自分だけが生き残る事など、人魚姫にできるわけがなかったのです。

朝日が昇り始めました。

「さようなら、王子様・・・。」

 人魚姫はその身を生まれ育った大好きな海に投じ、泡となりました。その後、その泡は空へと浮かび上がり、風となって消えたという事です。

​​ この作品は、人魚姫の姉が海の魔女の元へ短剣をもらいにいく瞬間を彫刻したものです。妹を助けたい一心で、普段近寄る事もない暗くて深い海底へ一気に潜って行く姉。

縦長のワイングラスは暗い海の底へ通じる道であり、そんな狭い空間に躍動感あふれる尾びれのみを彫刻する事により、妹想いの優しく強い姉の気持ちが表現できたのではないでしょうか。

人魚姫 ガラス if

人魚姫 - if -

​ 人魚姫は、最後に自分が思い描く未来がこない事を知り自ら命を絶ってしまうわけですが、​もし、15歳の誕生日が一日ずれていたら、絶世の美しさを兼ねて生まれてきた人魚姫はどんな姿に変わって​いたのでしょう。

 次々と作品に着手していく中で、人間と交わることがなかった人魚姫のイメージが私の頭に浮かび、その姿は徐々に『大人になった人魚姫』へと変化していきます。青い海の中には優しく照らし落ちて行く光のカーテン。目を落とせば鮮やかで美しい水草が生い茂り、珊瑚の中には遊びまわる小さな魚達。彩を添えるように優しく咲く水中花がゆらゆら揺れている。その中に水の精霊ともいえる美しい人魚が慎しやかに存在している・・・。

『もし人魚姫が人魚としてそのまま大人になっていたら・・・。』

私は、前の作品“難破船”が終わってすぐに“if”の制作にとりかかりました。

 既に出来上がっているイメージを吐き出すのにそれほど時間はかかりませんでした。そして、このイメージに一番似合うのは何だろうと考え、勢いまかせに24cmもある大皿プレートも用意しました。


​ しかし、これが悲劇の始まりでした。一番重要な人魚姫の彫刻が終わった瞬間、あろうことか私はそのガラスを落として割ってしまうのです。それは一瞬の出来事で、「あっ」と思った時には床一面にガラスの破片が・・・。大物を扱う時に伴うリスクの一つである事は重々わかっていたはずなのに・・・。

キラキラと反射した人魚姫はガラスの泡を連想させました。

こうして、とても残念ではありますが、“初代if”は想いを遂げることなく消えて行ったのです。

​​ 時間のない中での出来事でしたが、それでもあきらめられない私は、すぐに次の「if」を彫る事に決めました。

ガラスの入手が困難な事も重なり、作品の素材自体は変わってしまったのですが『どうしても仕上げたい・・・』その思いだけで、昼夜、時間を見つけてはコツコツと慎重に“if”を彫り進めていきました。

 そして、なんとか同じく20cmをこえる大きなガラスプレートへの彫刻が完成しました。

 本来制作される予定がなく、更に思わぬ事態になってしまった“if”ですが、しっかりと形を持たせる事ができ、またこの人魚シリーズの代表作として東京展へ出展できた事は、本当に嬉しい限りです。今回のテーマの中心を飾らせて頂く作品ともなりましたが、その姿に何か感じてもらえる事が一つでもあれば幸いです。

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